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東京地方裁判所 平成8年(行ウ)13号 判決 1998年9月30日

原告

株式会社武蔵野ゴルフクラブ

右代表者代表取締役

小宮山義孝

右訴訟代理人弁護士

早乙女芳司

被告

八王子市固定資産評価審査委員会

右代表者委員長

土方隆太郎

右訴訟代理人弁護士

岩崎公

右指定代理人

岡部晴夫

外一名

主文

一  被告が平成七年一〇月一九日付けでした別紙物件目録記載の各土地の土地課税台帳に登録された平成六年度の価格に関する原告の審査申出を棄却した決定を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

主文同旨

第二  事実関係

一  事案の概要

本件は、他の土地とともに一体としてゴルフ場の用に供されている別紙物件目録記載の各土地(以下「本件各土地」といい、本件各土地を含むゴルフ場を「本件ゴルフ場」という。)の所有者である原告が、本件各土地の土地課税台帳に登録された平成六年度の価格に不服があるとして、被告に対し審査申出をしたところ、被告が平成七年一〇月一九日付けでこれを棄却する決定(以下「本件決定」という。)をしたので、その取消しを求めるものである。

二  法令の規定等

1  法令等の定め

(一) 固定資産税は、固定資産に対し、その所有者(質権又は一〇〇年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地については、その質権者又は地上権者とする。以下同じ。)に課する地方税である(地方税法(以下「法」という。)三四二条、三四三条)。

そして、土地に対して課する基準年度(本件では平成六年度。)の固定資産税の課税標準は、当該土地の基準年度に係る賦課期日(本件では平成六年一月一日。法三五九条)における価格、すなわち「適正な時価」で土地課税台帳に登録されたもの(以下「登録価格」という。)である(法三四九条一項、三四一条五号)。ただし、法三四九条の三以下に規定する課税標準の特例及び平成六年度から平成八年度までの各年度分の固定資産税に関する平成七年法律第四〇号による改正前の法附則(以下「附則」という。)一七条の二の適用がある場合の課税標準は、登録価格に所定の調整措置を施したものとされている。

(二) 登録価格の決定に際しての土地の評価については、自治大臣が、評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を定め、告示しなければならないものとされ、固定資産評価基準(昭和三八年一二月二五日自治省告示第一五八号。以下「評価基準」という。)が告示されており(法三八八条一項)、市町村長は評価基準によって土地の価格を決定しなければならない(法四〇三条一項)。なお八王子市においては、評価基準及びこれに基づいて定められた固定資産(土地)評価事務取扱要領(乙第二七号証。以下「取扱要領」という。)により、土地の価格が決定されている。

(三) 市長は、固定資産評価員から所定の手続による土地の評価に係る評価調書を受理したときは、毎年二月末日までに土地の登録価格等を決定し、これを土地課税台帳に登録しなければならない(法四一〇条、四一一条一項)。

そして、登録価格等を記載した土地課税台帳は、原則として毎年三月一日から同月二〇日まで(本件においては、平成六年四月一日から同月二〇日まで。)関係者の縦覧に供され(法四一五条一項)、納付年度(第二、第三年度の価格が基準年度の価格によるときは、基準年度。)に係る登録価格について不服のある納税者は、縦覧期間の初日からその末日後一〇日までの間に固定資産評価審査委員会に対して審査の申出をすることができ(法三八一条一項、四三二条一項)、更にこの決定に不服があるときは、その取消しの訴えを提起することができる(法四三四条一項)。

なお、登録価格に対する不服は右の方法に限られ(法四三四条二項)、固定資産税の賦課に対する不服申立てにおいては、登録価格に対する不服を理由とすることはできない(法四三二条三項)。

(四) 評価基準第一章第一〇節二によれば、雑種地等のうちゴルフ場等の用に供する土地(以下「ゴルフ場等用地」という。)の評価は、当該ゴルフ場等を開設するに当たり要した当該土地の取得価額に当該ゴルフ場等の造成費(当該ゴルフ場等の造成に通常必要と認められる造成費によるもの。)を加算した価額を基準とし、当該ゴルフ場等の位置、利用状況等を考慮してその価額を求める方法によるものとされている。この場合において、取得価額及び造成費は、当該土地の取得後若しくは造成後において価格事情に変動があるとき、又はその取得価額若しくは造成費が不明のときは、「附近の土地の価額」又は最近における造成費から評定した価額によるものとされている。

また、ゴルフ場用地の評価について定めた「ゴルフ場の用に供する土地の評価の取扱いについて」(昭和五〇年一二月二六日自治固第一三七号東京都総務・主税局長、各道府県総務部長あて自治省固定資産税課長通達。以下「ゴルフ場通達」という。)によれば、ゴルフ場用地の取得後において、価格事情に変動があったことにより、当該土地の取得に要した費用の額を用いることが適当でないゴルフ場、又はその取得に要した費用の額が不明なゴルフ場にあっては、次の(1)又は(2)のいずれかの額により取得価額を計算することとされており、また、注として、アないしウが記載されている(乙第二三号証)。

(1) 次の(2)に該当するゴルフ場以外のゴルフ場(以下「市街地近郊ゴルフ場以外のゴルフ場」という。)にあっては、開発を目的とした近傍の山林に係る売買実例価額等を基準として求めた額に「宅地の評価割合」を乗じて得た額

(2) その周辺地域の大半が宅地化されているゴルフ場(以下「市街地近郊ゴルフ場」という。)にあっては、次の算式により算定した額

ゴルフ場の近傍の宅地の単位地積(一平方メートル。以下同じ。)当たりの評価額×ゴルフ場用地の地積×ゴルフ場用地を宅地に造成することとした場合において公共用地その他宅地以外の用途に供されることとなることが見込まれる土地以外の土地の地積の当該ゴルフ場用地の総地積に対する割合(以下「宅地化割合」という。)−ゴルフ場と同一規模の山林を宅地に造成することとした場合において通常必要とされる造成費(以下「山林に係る宅造費」という。)×宅地の評価割合

ア 市街化区域内に所在し、又は市街化区域に囲まれているゴルフ場については、原則として、市街地近郊ゴルフ場として扱うものであること。

イ 宅地化割合は、おおむね六割程度とすることが適当であるが、当該市町村の宅地開発に係る指導要綱等と関連して、これと異なる割合を用いることもできるものであること。

ウ 山林に係る宅造費は、原則として、山林に係る平均的宅造費(八七八〇円/平方メートル)を基準として求めるものとするが、実情に応じてこれと異なる額によることができるものであること。

右のほか、ゴルフ場通達では、山林に係る宅造費は原則として八七八〇円/平方メートル、ゴルフ場のコースに係る平均的造成は丘陵コース九四〇円/平方メートル、林間コース七九〇円/平方メートルを基準とするものと規定されており、また、評価基準においてゴルフ場用地の評価において考慮すべきこととされているゴルフ場の位置、利用状況等による補正は、当該ゴルフ場の年間の利用状況等に応じ、他のゴルフ場の価額との均衡を失しないよう必要に応じ、増価又は減価を行うためのものである旨が定められている。

八王子市におけるゴルフ場等用地の評価方法を定めた取扱要領第二章第二節では、次の式のみが掲げられており、八王子市内のゴルフ場は、いずれもゴルフ場通達による市街地近郊ゴルフ場の評価方法によって評価することとされている。なお、同一規模の山林の宅地造成に係る平均的宅造費は八七八〇円/平方メートル、ゴルフ場のコースに係る平均的造成費は九四〇円/平方メートルとされている。

ゴルフ場の近傍の宅地の評価額(1平方メートル当たり)×潰地以外の土地の割合(宅地化割合に相当する。60/100)−同一規模の山林の宅地造成に係る費用×宅地の評価割合(0.7)+ゴルフ場の造成費×宅地の評価割合(0.7)

2  宅地に係る平成六年度の評価に関する通達(甲第二、第三号証、第五号証)

(一) 自治事務次官は、平成六年度の評価替えに当たり、評価基準の具体的な取扱いに関する従来の通達を一部改正する旨の通知(平成四年一月二二日自治固第三号。以下「七割評価通達」という。)を各都道府県知事宛に発した。

七割評価通達は、土地の評価は売買実例価額から求める正常売買価格に基づいて適正な時価を評定する方法によるものであるとしていた従来の規定に、宅地の評価に当たっては、地価公示法による地価公示価格、国土利用計画法施行令による都道府県地価調査価格及び不動産鑑定士又は不動産鑑定士補による鑑定評価から求められた価格を活用することとし、これらの価格の一定割合(当分の間この割合を七割程度とする。)を目途とする旨を付加するものである。

(二) また、自治省税務局資産評価室長は、平成六年度の評価替えに当たり、「平成六年度評価替え(土地)に伴う取扱いについて」と題する通知(平成四年一一月二六日自治評第二八号、以下「時点修正通知」という。)を各都道府県総務部長及び東京都主税局長宛に発した。

時点修正通知は、平成六年度の評価替えは、平成四年七月一日を価格調査基準日として標準宅地について鑑定評価価格を求め、その価格の七割程度を目標に評価の均衡化、適正化を図ることとしているが、最近の地価の下落傾向に鑑み、平成五年一月一日時点における地価動向も勘案し、地価変動に伴う修正を行うこととしている。

三  争いのない事実等

1  本件各土地は、別紙図面1中の斜線で表示された位置内に所在しており、不動産登記簿上の地目は雑種地、山林及び原野である。

原告は、本件各土地を、昭和三〇年ころに取得し、ゴルフ場として造成し、昭和三五年ころに本件ゴルフ場を開業した。以後、本件各土地は、一体として本件ゴルフ場の用に供されている。なお、昭和四六年に本件ゴルフ場及びその周辺土地は市街化調整区域に指定され、現在に至っている。

2  八王子市長は、本件各土地の平成六年度の固定資産の評価額を別紙物件目録中「平成六年度評価額」欄記載の各金額(以下「本件評価額」という。)のとおり決定し、土地課税台帳にそれぞれ登録した。

3  原告は、本件評価額に不服があるとして、被告に対し、平成六年五月二日、審査申出をしたが、平成七年一〇月一九日、被告は、原告の右審査申出を棄却する旨の本件決定を行い、同月二五日付け文書で本件決定を原告に通知した(到達は同月二六日。)。原告は、本件決定を不服として平成八年一月二三日、本件訴訟を提起した。

4  本件土地の評価に関する被告の認定

本件各土地の評価に関する被告の認定は以下のとおりである。

(一) 本件各土地は、ゴルフ場の用に供され、現況の地目は雑種地であり、原告が本件各土地を取得した後において価格事情に変動があり、原告が本件各土地を取得するのに要した費用の額を用いることが適当でないと認め、ゴルフ場通達に基づき本件ゴルフ場を「市街地近郊ゴルフ場」と認定した。

(二) 別紙図面1中、橙色、紫色、青色及び赤色でそれぞれ示された地域を本件ゴルフ場の周辺の状況類似地区とし、それぞれの標準宅地である後記の(1)ないし(4)の土地を本件ゴルフ場に係る近傍の宅地として選定し、その平成六年度の固定資産評価額の単位地積当たりの価額の平均値である八万五〇〇〇円を、本件ゴルフ場の「近傍の宅地の単位地積当たりの評価額」とした。

(1) 東京都八王子市宮下<番地略>所在の宅地(以下「近傍宅地一」という。)

平成六年度の単位地積当たりの固定資産評価額 一七万二〇〇〇円

(2) 同市宮下町<番地略>所在の宅地(以下「近傍宅地二」という。)

平成六年度の単位地積当たりの固定資産評価額 四万七〇〇〇円

(3) 同市戸吹町<番地略>所在の宅地(以下「近傍宅地三」という。)

平成六年度の単位地積当たりの固定資産評価額 五万六〇〇〇円

(4) 同市犬目町<番地略>所在の宅地(以下「近傍宅地四」といい、近傍宅地一ないし四を合わせて「本件各近傍宅地」という。)

平成六年度の単位地積当たりの固定資産評価額 六万八〇〇〇円

(三) 本件ゴルフ場の地積を40万1382.30平方メートル、宅地化割合を六〇パーセント、山林に係る宅造費を八七八〇円、宅地の評価割合を七〇パーセントとし、これを前記の式にあてはめ(詳細は別紙計算書記載のとおり。)、本件ゴルフ場用地の取得価額を一八〇億〇三六〇万一六八五円と算出した。

(四) 本件ゴルフ場用地の造成費を一平方メートル当たり九四〇円とし、これに本件各土地の地積及び宅地の評価割合(0.7)を乗じて本件ゴルフ場用地の造成費を二億六四一〇万九五五三円と算出し、本件ゴルフ場の取得価額(一八〇億〇三六〇万一六八五円)にその造成費(二億六四一〇万九五五三円)を加算した合計額に位置利用状況等による補正(1.0)を乗じ、本件ゴルフ場用地の評価額を一八二億六七七一万一二三八円と算出し、これを本件ゴルフ場用地の地積(40万1382.30平方メートル)で除して、本件ゴルフ場用地の一平方メートル当たりの評価額を四万五〇〇〇円と算出した。

(五) 本件ゴルフ場の一平方メートル当たりの評価額(四万五〇〇〇円)に、本件各土地の地積をそれぞれ乗じて本件各土地の評価額を算出した。

第三  争点及び争点に関する当事者の主張

一  争点

本件の争点は、次の四点である。

1  固定資産税の賦課期日の意義

2  本件ゴルフ場を市街地近郊ゴルフ場と評価した点の適法性

3  評価方法における個別の違法性の有無

4  本件評価額が賦課期日当時の本件各土地の適正な時価を超えているか否か

二  当事者の主張

1  固定資産税の賦課期日の意義

(被告)

(一) 「適正な時価」とは、法の要求する評価の方法及び手順、すなわち評価基準及びこれに関連する法令等に従って適正に評価された価格を意味しており、膨大な筆数の土地の評価の見直しを、短期間で適正に行うのは実務上不可能であることからすれば、法は基準年度の賦課期日から評価事務に要する期間をさかのぼった時点の価格を基準として、賦課期日における価格を評価することも予定している。

ゴルフ場通達及び取扱要領で、近隣の宅地の評価額(又は山林の時価)に宅地の評価割合(七割評価通達により当分の間七割とされている。)を乗じることとされているのは、市町村相互間及び当該市町村内のゴルフ場用地相互間の評価の均衡を図る手段であることに加えて、宅地等の他の地目の評価との均衡を図るためであり、取得価額中に含まれている不正常要素を定量的に捉えているものである。

固定資産税の課税が適正に行われるためには、全国の各市町村で実質面のみならず手続面でも均衡がとれていることが必要であり、全国の各市町村間では、評価額算定の前提となる価格調査基準日等についても一致させなければならないところ、時点修正通知は評価基準を具体的かつ統一的に運用するために定められたものであり、評価基準と一体のものとして取り扱うことは、法の根拠に基づくものである。そして、平成五年一月一日以降の地価動向を勘案することは、評価基準及びこれと一体をなす時点修正通知においても予定されていない。

(二) 本件で平成四年七月一日を価格調査基準日とし、平成五年一月一日までの半年間の期間について時点修正を行った本件の評価の方法、手順は相応の合理性を有している。

(原告)

評価額は、評価基準に従って算出されなければならないが(法四〇三条)、評価基準によって算出された価格が法の要求する「適正な時価」であるという保証はない。

法は、賦課期日である平成六年一月一日の時価を評価額として登録することを要求している。被告は、評価事務に一定の期間を要すると主張するが、一年間もの期間は不要であるし、仮に、一年間という期間に合理性があるとしても、法が、賦課期日の時価とすることを要求している以上、その間の地価の変動が著しい場合には、事後に修正する必要があるというべきである。

そして、賦課期日における適正な時価の登録を要請している法の趣旨、租税法律主義の原則からすれば時点修正通知の趣旨は、平成五年一月一日の時点で、賦課期日である平成六年一月一日までの価格動向を予測し、これを考慮して評価額を算出することを要求していると解するべきである。また、公示価格等に七割を乗じた趣旨は、本件のような価格差が生じた場合の救済を予定したためではなく、平成六年一月一日の公示価格等の七割をもって、「適正な時価」としたものである。

本件決定は、平成四年七月一日を価格調査基準日とし、平成五年一月一日までの時点修正を行っているだけで、その後の価格の変動を考慮しておらず、時点修正通知、ひいては法の解釈、運用を誤った違法なものである。

2  本件ゴルフ場を市街地近郊ゴルフ場と評価した時点の適法性

(被告)

(一) 八王子市においては、市内のゴルフ場はいずれも同市の中心市街地からさほど遠くないこと及び同市の西部方面及び東部方面の一部を除いて大体が市街化区域であること、市街化区域内の土地については原則として宅地及び宅地に比準する方法で評価されており、一方、市街化調整区域内の土地においても、雑種地については、宅地に比準して評価されていることから、市内の土地の固定資産相互の評価の均衡を図るために、同市内のゴルフ場はいずれもゴルフ場通達に基づき市街地近郊ゴルフ場として評価することとして取扱要領を定めている。本件ゴルフ場は、この取扱要領に定められた方法により評価したものである。

(二) ところで、ゴルフ場通達によれば、市街地近郊ゴルフ場以外のゴルフ場用地の取得価額の算定方法は、ゴルフ場の近傍の山林の時価に宅地の評価割合を乗じたものとされているが、山林を宅地造成する場合には、利潤を考慮外とすれば、次の関係が成立する。

山林の時価+山林の造成費

=単位面積当たりの宅地の時価×総面積×宅地化割合

そうすると、山林の時価=単位面積当たりの宅地の時価×総面積×宅地化割合−山林の造成費となり、これを前記の市街地近郊ゴルフ場以外のゴルフ場用地の取得価額の算出方法に当てはめると、取得価額は、宅地の評価額×総面積×宅地化割合−山林の造成費×宅地の評価割合となる。これは、市街地近郊ゴルフ場の評価方法と同一である。

そうすると、本件において、市街地近郊ゴルフ場と評価したか、市街地近郊ゴルフ場以外のゴルフ場と評価したかの違いは、評価額の違いに反映せず、さしたる問題ではないというべきである。

もっとも、山林の時価については、市街化調整区域内の山林と市街化区域内の山林とでは、開発の難易度の差から、その価格に乖離があるので、いずれの価格から比準するかを検討する必要があるところ、本件では現実にゴルフ場が存在しているのであるから、市街化区域内の山林の時価から取得価額を求めるべきであり、都市計画法三四条により一定の条件に該当すると認められる場合でなければ東京都知事による開発許可が禁じられている市街化調整区域内の山林の時価から取得価額を求めるべきではない。

(三) また、評価基準で定める「附近の土地の価額」とは資産価値上ゴルフ場等用地と類似している土地を選定すべきところ、宅地は、ゴルフ場と同様に資本を投資し開発した土地であり、本件においても宅地を「附近の土地」としたものである。

評価基準がゴルフ場等用地の取得価額を求める場合において、「附近の土地の価額」に比準することとしているのは、ゴルフ場等用地とそれ以外の土地との固定資産の評価の均衡を図るためである。ところで、山林及び農地(市街化区域内の農地を除く。)の固定資産の評価額は林木又は農地の生産力に着目したものとなっており、ゴルフ場等用地とその価格形成要因を異にするから、これらを基準とするのは妥当ではなく、一方雑種地及び市街化区域内の農地の固定資産税の価格は宅地の固定資産の評価額に比準してその価格を求めているのであるから、これらを基準にすることは結果的に宅地の評価額を基準としたことと同じになる。右によれば、「附近の土地の価額」を宅地の固定資産の評価額としたことは、評価基準の趣旨に沿うものというべきである。

(原告)

(一) 市街地近郊ゴルフ場としての認定評価方式は、その近傍にそのゴルフ場用地の価格を算出するための山林が存しない状況下にあるためにやむを得ず許容される評価方式であるところ、本件ゴルフ場は近傍に広大な山林を有しており、その周辺の大半が宅地化されているということはできないから、市街地近郊ゴルフ場には該当しない。現実にも、本件ゴルフ場用地は、ゴルフ場を廃止した場合、直ちに宅地として開発できる土地ではないから、資産価値として宅地と類似しているとはいえない。

(二) そして、本件ゴルフ場は、市街化調整区域内に所在し、その周辺も市街化調整区域であるから、造成用地としての土地の取得価額は、市街化調整区域内の山林の価額から求めるべきである。

具体的には、地価公示地の八王子一三―四、同一三―三、同一三―一はいずれも本件ゴルフ場から1.26キロメートルないし4.55キロメートルの距離にあり、ゴルフ場用地又は大型宅地造成用地としては近傍類似地域というべきところ、その平成五年一月一日の時点の公示価格をもとに本件ゴルフ場用地の価格を比準したものの平均値は二万一五〇〇円であり、本件各土地の価格を算定するにあたっては、右の価格を基準とすべきである。なお、右各地点は、地域森林計画区域内の山林であり、開発行為は、東京都知事の許可を要するが、一定の条件に抵触しない限り、知事はこれを許可しなければならないとされている(森林法一〇条の二)。

この点、被告は、市街化調整区域内の土地は開発が困難で基準として不適切であるから、市街化区域内の山林の価格から求めるべきであると主張するが、市街化区域内の山林は、小規模な宅地開発用地として取引されるのであって、ゴルフ場用地の価格算定の基礎とするのは不適当であり、市街化調整区域においても一定の基準を満たし、適法な手続を経れば、東京都知事により第二種特定工作物であるゴルフコースのための開発が許可されるのである(都市計画法四条一一項、二九条、三三条)から、被告の主張は失当である。

3  評価方法における個別の違法性の有無

(原告)

(一) 本件ゴルフ場は、進入路が国道四一一号線に接しているだけでゴルフ場自体は国道四一一号線には面していないから、同様に国道四一一号線から数十メートル奥まった土地を標準地とするか、奥行補正をした価格を基にすべきである。にもかかわらず、被告が、遠方であり、市街化区域の存在する高額な近傍宅地一を選定したのは、八王子市内の他のゴルフ場の評価額との均衡を図るために、あえてしたものであって、合理的かつ適正な選定とはいえない。

(二) 本件ゴルフ場は、高低差のあるゴルフ場であり有効宅地化率は三〇ないし四〇パーセントと思われるが、かかる有効宅地化率について実証することなく六〇パーセントを有効宅地化率としているのは不当である。

本件は今後も半永久的にゴルフ場として使用されざるを得ない営業中のゴルフ場の取引価格を求めるものであり、収益還元法による価格算定は重要であり、鑑定人千葉良夫作成の鑑定書(以下「本件鑑定書」という。)においても、本来収益還元価格による価格がより一層重視されてしかるべきであった。

(被告)

ゴルフ場のように、広大な土地に資本を投下し、開発した土地であれば、一般的にその価格は市街化調整区域内の宅地の価格水準であるはずがなく(八王子市内の市街化区域内の大規模開発に伴う宅地の価格は一平方メートル当たり約二〇万円である。)、そのため、八王子市内の市街化調整区域内のゴルフ場の取得価額を求めるについては、すべてのゴルフ場において近傍の市街化区域内の宅地を一つずつ選定している。本件ゴルフ場においては、その進入路が国道四一一号線に面していることから、その国道四一一号線と交差する地点の状況類似地区の標準宅地である近傍宅地一を近傍宅地の一つとして選定したものである。なお、近傍宅地二ないし四については、ゴルフ場のコースの敷地に隣接する状況類似地の標準宅地であったためそれぞれ選定したものである。

4  本件評価額が賦課期日当時の本件各土地の適正な時価を超えているか否か

(原告)

平成六年五月の時点での本件各土地に隣接する造成済みの平坦地の買収提示価額が一平方メートル当たり一万五一二五円であったこと同年九月六日の時点での同土地の売買価額が一平方メートル当たり八三八九円であったことからすれば、本件各土地の一平方メートル当たりの価額は約一万五〇〇〇円であり、固定資産評価額は、その七割である一万〇五〇〇円とすべきである。

(被告)

本件では、本件各土地の取得後において価格事情に変動がある場合に該当するので、評価基準に定める「附近の土地の価額」から土地の取得価額を評定したものであるが、本件ゴルフ場は市街化区域と市街化調整区域との線引がされる前に造成され、その後に周辺土地と共に市街化調整区域に指定されたものであり、現に開発がされている点において既に資本投下により開発された宅地を「附近の土地」とすべきであり、かつ、広大な敷地につき妥当する価格水準を反映させるため、複数の「附近の土地の価額」の加重平均によることとしたのであって、近傍宅地一ないし四の選定は妥当であり、これらの価額から求められた価額は一平方メートル当たり八万五〇〇〇円であるから、本件評価額は本件各土地の時価を超えるものではない。

本件各近傍宅地については、鑑定によって定められた正常価格の七割程度の価格をもって、宅地の単位地積当たりの評価額を算出したところ、本件各土地の周辺の土地の平成五年から平成六年にかけての一年間における地価の下落率は二パーセントから四パーセントまでの範囲に止まっているから、本件各土地の平成六年度の固定資産の評価額は、賦課期日である平成六年一月一日現在における正常取引価格を上回るものではない。

本件鑑定書における評価では市街化調整区域内の土地取引事例及び現況山林の公示価格から比準価格を求め、営業可能なゴルフ場向きの一団の土地として二五パーセントの増加修正を加えているが、これは市街化調整区域内の土地でありながら、昭和三五年に開発され、今後も引き続きゴルフ場として使用できる土地であるという稀少性を過度に低く評価したものである。一方本件鑑定書の中で、開発することができる土地であれば、造成後、転換後の想定更地価格として、一平方メートル当たり一九万円とされており、二万八七五〇円とは相当乖離があることからも明らかである。一方被告の評価額四万五〇〇〇円は一九万円と比較して四分の一にも達しておらず高い評価とはいえない。また造成費については取扱要領記載の一平方メートル当たり九四〇円を採用したとしているが、山林のままの素地価格にコース造成費を加えただけであって、ゴルフ場としての原形を作る作業の造成費が計上されておらず、不合理である。

三  証拠関係

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四  争点に関する判断

一  「適正な時価」の意義

1  固定資産税は固定資産の所有者に対して、資産の所有という事実に着目して課税される財産税であり、資産が土地の場合には、土地の所有という事実に着目して課税するのであって、その更地価格を基礎として、賦課期日における所有者を納税義務者として課税される。このような固定資産税の性質からすると、その課税標準又はその算定基礎となる土地の「適正な時価」とは、正常な条件の下に成立する当該土地の売買価格、すなわち、客観的な交換価値(以下「客観的時価」という。)をいうものと解するべきである。すなわち、法は、課税標準又はその算定基礎となるべき価格を客観的時価としたうえ、税率の決定又は課税標準若しくは税額の調整によって固定資産税の性格に応じた適正な課税を実現しようとしているものと解するべきである。

2  なお、客観的時価は、次に説示するとおり賦課期日における現況を前提とする正常売買価格によるものであるから、その評定の過程における売買実例価額に含まれる将来における期待価格は、これを含まないものとして評定するべきものである(「固定資産評価基準の取扱いについて」昭和三八年一二月二五日自治乙固発第三〇号自治事務次官通達第二章第一節四(イ)参照)。

二  「適正な時価」の算定基準日

1 法は、登録価格を基準年度に係る賦課期日における価格としているから(法三四九条一項)、右登録価格である客観的時価を算定すべき基準日は、賦課期日である当該年度の属する年の一月一日、本件についていえば、平成六年一月一日となる。そして、評価基準の定めも、この理解を前提とするものと解すべく、附則一七条の二及び一八条も、他の時点をもって登録価格の算定基準日とする根拠とすることはできない。

もっとも、法は、市町村長の価格決定を賦課期日の約二か月後に当たる二月末日までに行うべきものとしている(法四一〇条)ところ、大量に存在する課税対象につき「適正な時価」を算定する諸手続を考慮すると、約二か月間のうちに評価事務のすべてを行うことは困難である。したがって、賦課期日における価格の算定資料とするための標準宅地等の価格評定事務について、賦課期日からこれらの評価事務に要する相当な期間をさかのぼった時点を価格調査の基準日とし、同基準日における価格を基礎として算定した価格では賦課期日における適正な時価を上回ると見込まれるときには、あらかじめ想定される価格下落率を折り込んで各土地の価格評定事務を遂行することも法及び評価基準は許容しているものと解される。

2  なお、時点修正通知は、宅地の評価事務に関して、標準宅地の評価額を価格調査基準日のそれに固定することなく、時点修正をすべき旨を教示するものと解されるが、さらに、賦課期日までの時点修正の必要性を否定する趣旨と解することはできない。

三  評価基準による評価と客観的時価との関係

1  適正な時価の意義を前記一のように解すると、土地の適正な時価の算定は、鑑定評価理論に従って個々の土地について個別的、具体的に鑑定評価することが最も正確な方法ということになるが、限りある人的資源を活用しても、一定の期間内に、反復・継続的に、全国に存在する大量の土地について均衡のとれた評価を実施することは、困難を極めることから、法は、これらの諸制約の下において、その評価方法を自治大臣の定める統一的な評価、基準によらしめることとし、もって、大量の土地について反復・継続的に実施される評価を可及的に適正に行い、各市町村全体の評価の均衡を確保するとともに、評価に関与する者の個人差に基づく評価の不均衡を解消しようとしているものということができる。

2  右のとおり、法は、固定資産の評価については、評価基準によることを求めているから、法にいう「適正な時価」とは、評価基準によって評定された時価ということになる。

しかし、「適正な時価」とは本来客観的に観念されるべき事項であって、法が自治大臣の策定する評価基準に委任したものは「適正な時価」を評価するための基準、方法及び手続であるから、評価基準による評価が客観的時価を上回る場合には、その限度において、登録価格は法に反するものということになる。そこで、評価手続上、賦課期日の時価が予測値にならざるを得ないことも考慮して、少なくとも評価額が客観的時価を超えるという事態が生じないよう「適正な時価」をあらかじめ控え目に評定することも許されるというべきである。

四  ゴルフ場通達の趣旨について

1  ゴルフ場等用地の評価に関する評価基準の内容は、前記のとおりゴルフ場等を開設するに当たり要した当該土地の取得価額とゴルフ場等の造成費との合算額を基準とし、時日の経過等により、これらが変動し又は不明となった場合には、「附近の土地の価額」又は最近の造成費用から評定した価額によるとするものであり、ゴルフ場通達は、右の「附近の土地の価額」について、市街地近郊ゴルフ場以外のゴルフ場にあっては、開発を目的とした近傍の山林に係る売買実例価額を基準とした額とし、市街地近郊ゴルフ場にあってはゴルフ場の近傍の宅地の固定資産評価額を基準とすること及び右の額から取得価額を算定する方法について具体的に定めたものである。

2 右のとおり、評価基準が「附近の土地の価額」から評定しようとする価額は、賦課期日において当該土地を造成前の状態で取得する場合の客観的時価としての取得価額ということになるから、「附近の土地」とはゴルフ場等の開設を予定し得るものであるとともに、ゴルフ場等用地たる当該土地と価格形成要素を共通にするものであり、将来における期待価格を含まないものとして理解すべきであり、仮に、これらの条件を満たす「附近の土地」が存在しないときは、「附近の土地」として選定された土地の価額について、これらの条件を評定の過程において考慮して適切な補正を加えるべきものである。また、ゴルフ場等が開設されたことを直接的又は間接的な原因として生じることが予想される当該ゴルフ場等用地の価額上昇等は、当該ゴルフ場等の利用状況等の要素を考慮することによって、結果的に当該ゴルフ場等用地の登録価格に反映されることはあっても、当該ゴルフ場等が開設されていない状態での当該ゴルフ場等用地の取得価額の算定の際に考慮することは予定されていないというべきである。

3  この観点から、ゴルフ場通達の内容を検討すると、賦課期日において、当該ゴルフ場が市街化区域内に所在し、又は市街化区域に囲まれており、仮に、造成前の山林として当該土地を取得するとすれば、宅地化されることが価格要素に含まれると認められる場合には、市街地近郊ゴルフ場として、近傍の宅地の価額に基づいて所定の式に従って取得価額を算定すべきものであり、「その周辺地域の大半が宅地化されているゴルフ場」というのも、市街化区域内に所在し、又は市街化区域に囲まれ、あるいは、宅地化されることが当該ゴルフ場を含む周辺土地の価格要素に現に含まれているといえる程度に当該地域が宅地化されていることをいうものというべきであり、単にゴルフ場の周辺に宅地が存在していること又は付近の宅地化された地域からゴルフ場への進入路が存在し、当該ゴルフ場用地が宅地化され得る潜在的、抽象的な可能性があるというだけでは足りない。

また、市街地近郊ゴルフ場に該当しない場合には、ゴルフ場及びこれに類似した施設の開発を目的とした近傍の山林に係る売買実例価額等を基準として求めた額に宅地の評価割合を乗じて得た額によるべきことになる。なお、市街地近郊ゴルフ場としての評定方法は宅地価額から宅地化可能な山林の価額を算出するものであるから、山林の開発が宅地の用に供するためのものであり、宅地開発可能性が価格要素に含まれている場合には、市街地近郊ゴルフ場として評定するか否かに関わらず同一の価額を評定することになることは被告の主張するとおりである。しかし、市街地近郊ゴルフ場に該当しない場合とは、宅地の用に供するための開発可能性が価格要素に含まれない場合なのであり、いずれの方式によるかは、まさに評価基準に定める「附近の土地」の選定に影響を与えるものというべきである。

五  本件決定の適法性について

1  以上の観点から本件について見るに、前記争いのない事実等、証拠(乙第七ないし九号証、第二八号証)及び弁論の全趣旨によれば、本件ゴルフ場周辺の平成六年一月一日ころの現況については、以下の事実が認められる。

(一) 本件ゴルフ場は、東京都の西部に位置する八王子市中で宅地化が進んでいる東部の市街化区域と未だ山林が広がる西部の市街化調整区域が複雑に交差する境界付近に所在し、それ自体は未だ市街化調整区域に当たる南北約一キロメートル東西数キロメートルにわたる丘陵の北部付近に位置している。本件ゴルフ場に面した周囲の土地は、その大部分が森林であり市街化調整区域に属しているが、後記のように右丘陵のふもとのうち北、東及び南方向には宅地化された部分が存在する(別紙図面2参照)。

(二) 本件ゴルフ場のある丘陵の北東側の谷に相当する部分には谷地川に沿って国道四一一号線が通り、国道四一一号線に沿うようにして第二種住居専用地域に指定された地域が連なり、住居、畑、果樹園、原野が比較的まとまって存在しており、工場、厚生医療施設及び専用商業施設も点在している。右第二種住居専用地域に指定された地域の北部には主として市街化調整区域が広がっている。近傍宅地一が所在する状況類似地区は、右第二種住居専用地域の一部であり、本件ゴルフ場の敷地とは接していない。

(三) 本件ゴルフ場の西側数キロメートルの範囲及び本件ゴルフ場の南側一キロメートル程度の範囲には、それぞれ森林の中に病院、学校施設、神社、他のゴルフ場及び清掃事務所が点在する市街化調整区域が広がっているが、本件ゴルフ場から南方向に一キロメートル離れた主要地方道八王子・秋川線に沿った地域及び同1.5キロメートル程度離れた主要地方道八王子・五日市線に沿った地域は、第二種住居専用地域及び準工場地域に指定されており、その周囲及び南方向には広範囲にわたって住宅、教育文化施設、工場等が田畑や原野とともに広がっているが、本件ゴルフ場が所在する丘陵に近い部分では田畑、果樹園、原野として使用されている部分が比較的多い。

(四) 国道四一一号線からは、本件ゴルフ場の中心付近に所在するクラブハウスへの進入路が開設されている。また、右進入路とは別に国道四一一号線から本件ゴルフ場を横切り、主要地方道八王子・秋川線に接続した道路が開設されている。

2  右各事実によれば、本件ゴルフ場の北、東及び南方向に数百メートルないし一キロメートル程度離れたところには市街化区域が存在し、その中には宅地として利用されている部分が存在するが、田畑、果樹園及び原野として使用されている部分も多いこと、西方向には森林が数キロメートルにわたって続いていること及び本件ゴルフ場に接した地域は依然として市街化調整区域とされている森林が大部分であることが認められ、以上の事実に照らせば、本件ゴルフ場用地の売買等の取引が行われた場合にその売買価格等を周辺の宅地を基礎として算定することが確実であると認めることはできず、本件ゴルフ場を、その周辺地域の大半が宅地化されたゴルフ場と認めることはできないものというべきである。

そうすると、被告が、本件ゴルフ場を市街地近郊ゴルフ場としてその価額を評定したことは、ゴルフ場通達に反する評価方法というべきである。

3  もっとも、本件の評価方法がゴルフ場通達に反するとしても、それのみで直ちに評価基準に違反するということはできないから、次に、本件の評価方法が、評価基準に従ったものといえるか否かを判断することとする。

(一) 前記のとおり、本件ゴルフ場は、原告が昭和三五年ころ取得し、ゴルフ場として造成したものであり、その後に価格事情に変動があることが認められるから、本件ゴルフ場用地の取得価額をその「附近の土地の価額」をもとに算出することとしたことは、評価基準に従ったものということができる。

(二) そして、ゴルフ場のような広大な面積を有する土地を一体として評価する場合に、算定の基礎とする土地を一つに限定すべき理由はなく、かえってゴルフ場が異なる状況の土地に面している場合には、その異なる状況をそれぞれ考慮に入れて、ゴルフ場用地の価額を算定することは合理的であるということができるから、被告が複数の近傍宅地を選定しその平均価格をもって「附近の土地の価額」としたこと自体は評価基準に反するものではないというべきである。

(三) 次に、本件各近傍宅地の選定が本件土地の「附近の土地」の選定として適切であったといえるかどうかについて検討することとする。

(1) 前記認定事実、証拠(乙第二九号証)及び弁論の全趣旨によれば、本件ゴルフ場は、別紙図面1中の斜線で表示してある位置の市街化調整区域内の丘陵に所在していること、他方、本件各近傍宅地は、それぞれ別紙図面1中に記載してある地点に所在し、近傍宅地二ないし四はいずれも市街化調整区域内の宅地、近傍宅地一は市街化区域内の宅地であること、近傍宅地一が所在する状況類似地区は国道四一一号線に沿って家屋が連たんする第二種住居専用地域の平地で本件ゴルフ場と相当に周囲の状況が異なっている上、本件ゴルフ場から数百メートル離れた場所に位置して本件ゴルフ場と接していないこと、右状況類似地区と本件ゴルフ場との間には、近傍宅地二の状況類似地区が存在していることが認められ、右各事実からすれば、近傍宅地一は、本件ゴルフ場の「附近の土地」としてその価額算定の根拠にすることが適切な土地とはいえないというべきである。

(2) この点につき、被告は、広大な土地に資本を投下し、開発したゴルフ場の用地の価格は、市街化調整区域内の宅地とは異なる価格水準を有し、また、国道四一一号線から本件ゴルフ場への進入路があることから、国道四一一号線付近の状況が本件ゴルフ場の価格に影響を及ぼすことを考慮したものであると主張する。しかし、広大な土地への資本投下によるゴルフ場開発であるからといって、その用地の取得価額が当然に市街化区域内の宅地並みの水準となるものでないことは、宅地と異なる評価方法を定める評価基準及びこれを受けて市街化の程度によって評定方法を区別するゴルフ場通達が予定するところである。また、本件では、本件ゴルフ場への進入路沿いの土地を含み、より本件ゴルフ場に近接した地域の標準地として近傍宅地二が選定されており、しかも近傍宅地二は右進入路には面していないものの国道四一一号線から本件ゴルフ場を通り抜けて主要地方道八王子・秋川線に接続する道路に面した土地であって、その土地の価格の中に、国道四一一号線と接続している道路に面していることにより受ける影響は含まれているというべきである。そして、都市計画法上、市街化調整区域における開発許可の要件は、第二種特定工作物たるゴルフコースの開発と宅地開発とは要件を異にするものであり(都市計画法三四条)、既にゴルフ場として開発されているからといって、その価格形成要素に宅地の用に供するための開発可能性が含まれるとはいうことはできない上、前記認定に係る平成六年一月一日ころの本件ゴルフ場の現況に照らしても、近傍宅地一ないし四の価額の加重平均をもって本件各土地の評定の基礎となし得る程に、換言すれば近傍宅地一の価格が四分の一の価格影響力を有するといえる程に近傍宅地一が本件各土地と価格形成要素を共通にするものということはできないというべきである。

(3) そうすると、被告主張の影響を考慮する必要があるとしても、土地の周囲の状況、法的規制の有無等が本件ゴルフ場のそれと相当に異なっている近傍土地一を「附近の土地」として選定し、また、本件各土地と価格形成要素を共通とし、かつ、開発を目的とした近傍の山林に係る売買実例価額等が存在しないために、価格形成要素を異にする宅地又は市街化区域内の土地を「附近の土地」として、ゴルフ場用地の取得価額を算定せざるを得ないとしても、価格形成要素の相違点を評定の過程において考慮して適切な補正をすることなく、近傍宅地一ないし四の価額の加重平均をもって近傍宅地の評価額として市街地近郊ゴルフ場の評定方法を適用して算出された本件評価額は、その算出方法において評価基準の予定しないところであって、違法というべきである。

4  右のとおりであり、本件決定は、ゴルフ場通達に従ったものといえず、また、ゴルフ場通達とは別個の方法として検討しても、評価基準に従った評定方法とはいえないから、評価基準に従って固定資産の評価をすべきことを定めた法に反し、違法というべきである。

第五  以上によれば、本訴請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担については、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官富越和厚 裁判官團藤丈士 裁判官水谷里枝子)

物件目録<省略>

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